以前から欲しくてたまらなかった一本。それがプレベ。プレベと言っても、その初期型であるオリジナル・プレシジョン・ベース(OPB)です。
実は以前にもフェンダー・ジャパン製のOPBは持っておりライブでも使用していたのですが、どうもテンションが強すぎて弾きにくい、音が気に入らないと常々感じており、いつかはFendar U.S.Aのオリジナルを!と、思っていたのでした。そんなある日、たまたま行った銀座の某「Fender代理店」でこれを発見。カスタムショップ製でお高いものの、レギュラー品では無くあまり流通していないのでこの機会を逃す手は無いと即日購入を決めました。
ところで、ここではOPBの略称で通しますが、本場アメリカでは、'51 P-BassとかEarly P-Bassとか言うみたいですね。もちろんプレベというのも日本独自。どうせならこの際、オリプレなんて日本独自の略し方を作っちゃってもいいかも! ダメ?(笑)
オリジナルプレシジョンベースがフェンダー社から発表されたのは 1951年。それまでベースと言えばあの大きなウッドベース(コントラバス)のことで、図体がデカイわりに音が小さく、フルバンドで演奏しようものならどうしても音量的に不利で、また、その大きさから持ち運びが不便なものでした。
そこで登場したのがこのエレキベース。ピックアップを搭載したため好きなだけ音量を上げられるし、フレットが付いてるためにウッドベースに比べ誰にでも簡単に演奏できる(正確な音程が出せる)ということで大人気になりました。「プレシジョン」とは、「正確な」という意味ですが、それはこのフレットのことを言っているのです。また、なんと言ってもサイズが小さくなったのはドサまわりバンドマンにとって切実に便利なことでした。
私のこれは近年に作られたものなので、歴史的価値など全くありませんが、こんな昔話があるからこそ思い入れも深まるというもの。特にこのベースの場合は、元祖エレキベースとして歴史と共に語られることが多いのです。
ちなみに、「元祖」とくれば「本家」もいるもので、記録に残っている史上初のエレキベースは、これより15年も前の1935年に発表されています。当時のシアトル・ポスト紙に写真付きの広告として掲載されているそのベースは、オーディオボックス社(Audiovox Manufacturing Company)のPaul H. Tutmarcによって開発されたソリッドボディ、フレッテッド、つまりOPBと同じ仕様のものでした。しばらくして他にも数社でエレキベースが開発され、1938〜40年頃には、ギブソン社でもホロウボディ、フレットレス(ガイドライン入り)のベースが作られ、その一つはレス・ポール・バンドのベーシストにも使われたようです。
しかし、それらのエレキベースは、後のベース史を塗り替えるまでには至らず、結果的に、知名度および商業的に最も成功を収めたのが、このオリジナル・プレシジョンベース(OPB)なのです。
ちなみに、このオリジナル・プレシジョン・ベース、俗にテレキャスベースと呼ばれたりもしていますが(と言うか、自分でも最初そう呼んでいたのですが(笑)、テレキャスター・ベースとは、1968年〜1979年にフェンダーから発売されていたモデルのことでOPBとは別物です。OPBがプレシジョン・ベースの中の1モデル(初期モデル)であるのに対し、テレキャス・ベースはプレシジョンではない別のモデルと言えるでしょう。(右の写真は、'68年製のテレベ)
ちなみに、テレキャスターベースはフェンダーにとって事実上初のリイシュー・モデルとなったのでした。
'51年の誕生時には、両手を上げて歓迎された(かも知れない)このベースですが、現代のエレキベースに比べると、かなり未完成な楽器だと思います。まず、ボディーが板そのもの。右ヒジの当たる部分が角張っていて弾きづらい、いや、痛いのです。ギターで言えばテレキャスと同じですが、大きなボディーが痛さを倍増させており、これを改良したコンタード加工がいかに素晴らしい発明なのかを身をもって実感できます。
「スラブ・ボディ」というのは、その言葉どおり、「板ッ切れ」なんですね。
そして、エレキ楽器の心臓部とも言えるピックアップが構造上弱い。ボビンが剥き出しなので、ここに指を乗せて力を入れすぎると、そのうちPUをバラしてしまいます。ロウ付けしてあるだけですからね。実際、過去に2度ほど壊してしまったことがあり、今ではPUカバーをつけて弾いています。フィンガーレストをボディー上部に増設するという手もありますけど、オリジナルには無いですからね。
このPUは、オリジナルを破壊後にリペアショップで製作してもらったもので、ボビンの高さはフラットにしています。現実的には弦に合わせた高さの方がバランスが取りやすいですが、ここはやはりオリジナルの再現にこだわってみました。
そして、フィンガーレスト。これはプラ製ですが、本来は木製。また、現在のフィンガーレストとは違い、ネジが1本で止められています。昔はここに人指し指〜薬指(小指)を置いて弾いたようで、エルビス・プレスリー・バンドのベーシストがそう弾いているのを写真で確認することが出来ます。
当時のテレキャスター(ブロードキャスター)と同様、ブリッジのコマは2弦で1コ。これもやはり、現実的には各弦に対して1個づつの方が正確なオクターブピッチが合わせられるでしょう。ちなみに、発売当初コマの部分はフェノール樹脂を圧縮して固めたものでしたが、それは戦時中(朝鮮戦争)の物資不足のためだったとか。
ブリッジプレートに刻印されているのが、このベースのシリアルNoです。
当時のアメ車を連想させる直線的デザインのPUカバー。コンタードのない角ばったボディにはお似合いです。組み合わせによってイメージもがらっと変わります。また、後のプレシジョン・ベース用の丸みを帯びたものとは違うことも分かります。
メイプル・ワンピースのネック。丸みがありしっかりとした太さをもっていますが弾き難くくはありません。一般的なプレベよりも若干太いようです。
一番の特徴と言える素朴なヘッドストックにスパゲティロゴ。ペグは逆巻きです。写真では分かり辛いですが、デカールの貼り方が少々雑です。カスタムショップとは言え量産品であること、そして、当時の仕様通りラッカー塗装の上にデカールを張っていることが原因のようです。
そんな未完成な部分を多く持ちながらも、私を魅了してやまないのがこの音。しっかりとした芯のある音を中心に、柔らかく分厚い低音が周りを覆うといった感じでしょうか。一般的なプレベとは似て非なる音。「線が細い音」と評されることもよくありますが、このベースで細いと感じたことはありません。どちらかと言うと暴れん坊です。シングルPUなのでエッジを効かせることも出来るし、逆にシングルPUの特性を活かした弾き方により太く丸い音を出すことも出来ます。指のニュアンスがそのまま出てくる楽器なので見た目のゴツさの割にけっこう繊細です。
トーンを絞って弾いたときの音は、ウッドベースに通じるものがあり(元々、ウッドの音に似せて作られたわけですが)、古いR&B、60'sなどには確実にハマるサウンドです。逆に、このベースに苦手なジャンルは、へヴィ・ロックの重低音やフュージョン系の Hi-Fi サウンドでしょう。エフェクターをかませば守備範囲は広がるでしょうが、そういったベースじゃないですからね。私もコンプぐらいしか使っていません。というか、コンプぐらいは通した方が扱いやすくなるはずです。
個人的にはフラット・ワウンド弦でトーンをゼロにした時の音が最高に好きです。
どうです? だんだん欲しくなって来ませんか?(笑)
OPBや、同じ形のテレキャス・ベースは、現在いくつかのブランドから発売されています。しかし、それほど流通はしていないようなので楽器屋で見つけたら即弾いてみましょう! もう二度と会えないかも知れませんから!
OPBやテレキャスベースを使っているのは、どんなベーシストでしょう?
ますば、Led Zeppelinのジョン・ポール・ジョーンズ。1971〜75年のライブ(レコーディングでも?)でよく使っていたようで、いくつかの映像や写真でそれを確認することが出来ます。PUカバーもピックガードも外した状態で、'51年モデルと言われていますが、ちょうど時期的にはテレキャスターベースが新品で売られていた頃でもあります。
次に、スティング。なんとこの方、1951年10月生まれという、フェンダー・ベースと全くの同い年! そんな彼の愛器はコンタード加工、2トーンサンバースト、白いピックガードの'55年製のオリジナル・プレシジョン・ベース。ボロボロになったOPBを指でつま弾き歌う姿は印象的です。ただし、スティングが近年のライブで使用しているのは、最近フェンダーが製作した本人使用機のコピー・モデル(シグネチャー・モデル)だと思われます。
アース・ウィンド・アンド・ファイアーのヴァーダイン・ホワイトは、デビュー当初テレキャスター・ベースを使用していました。おそらく'68〜71年頃の初期モデルであろうと思われます(ヴァーダイン・ファンである友人CYCO氏より)。ブロンドフィニッシュ、ホワイト・ピックガード、シングルPUで、それは彼がベースを始めて間もない頃に買ったものでした。ちなみに、ヴァーダイン・ホワイトも1951年生まれ。スティング、そしてフェンダー・ベースと同い年です。
※参考になるページ : CYCO氏によるヴァーダイン・ホワイト・ファンページ。レアな写真も多数!
そんな、ヴァーダインにベースを教えていた、ルイ・サターフィールドもテレキャスターベースを使用していたようです。ルイ・サターフィールドは、チェスレコードのセッション・ベーシスト兼、トロンボーン奏者で、マディー・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、B.B.キング、マイク・ブルームフィールド、フィル・コリンズなどと共演し、EW&Fのホーンセクション、フェニックス・ホーンズのひとりでもありました。ヴァーダインがテレキャスター・ベースを買ったのは、師である彼の影響だと本人が語っています。
ZZ TOPのベーシスト、ダスティ・ヒルも忘れてはなりません。ライブでは毛の生えたエクスプローラー・ベースなども使っていますが、実はOPBが大のお気に入りで、最初期から現在までずっとメインはOPB。フェンダー以外とエンドースを結んでも常にOPB/テレキャスベースタイプ。何本ものテレベ・スタイルのベースを持っています。しかも、そのどれもが必ず「コンタード無し」。 う〜ん、マンダム。
その他、若い頃のドナルド・ダック・ダンや、ミーターズのジョージ・ポーターJr.、SRVやジョニーウィンター・バンドでやっていたトミー・シャノンなどもメインとして使用していた時期があったようです。
日本勢では私の知る限り、浜崎あゆみバンドにいた頃のエンリケ(歌番組に出演時)、ジッタリンジン(再結成後かな?)のベーシストが使っていました。
結局のところ、今でもオリジナル・プレシジョン・ベース(略してオリプレ。序章参照)を使い続けているのは、スティングと、ダスティ・ヒルぐらいですね。
そんな状況なんで、オリプレや テレベを使えば目立つこと間違い無し。つまり、